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| 2005.09.22 - Thu  |  夢の通い路 |

青いふうせんどこへゆく



川崎の狭い空の下



誰も見向きもしないのに。







      ****







…でも私は見ていました。



あれはちいさな男の子が持っていたものでした。



男の子は手のひらからふうせんが離れていったのに



一瞬気づいたようでしたが、上を向くことはありませんでした。



小さなそれは、



男の子の頭を軽々と越え、雑然と重なるビルの看板の上を抜け、



風のない、赤銅色の空の上へと



しずかにしずかにのぼってゆきました。



その向こうに京急の赤い電車が走ってゆくのが見えました。







私にはその午後に会う人がいましたが、



会う以外に用事らしい用事がなかったため、



他人事のようなこの街でひとり、何をするでもなく彷徨っていました。



だから、ちっぽけで見向きもされない青いふうせんは



私の目の中にだけ当たり前のように飛び込んできたのです。



ふうせんがのぼるのに合わせて私の視線も動きましたが、



立ち止まったままでは人の迷惑になりますので、



仕方なく再び歩き始めたのでした。







ふうせんにはこのざわざわした川崎は



どんどん小さく遠く、やがて見えなくなってしまうだろうに、



私は遂には流されてゆくしかないのでした。



同じ流されるなら私もふうせんも一緒かもしれない、



だけどあそこには誰もいないのでした。



…鳥も、風も、お日様さえも。



でもそれはここだってやっぱり一緒でした。





(ふうせんと私と、どっちがどれだけさびしいか)





そんなことを考えながら、



私は重いカバンをしょいなおして歩きました。



あと二時間後には約束の人と会えることでしょう。



そして8時間後にはさよならして遠く旅立たねばならないでしょう。







さよならを言うために会いにくる、



きゅっと寂しくなるために会いにくる。









      ***









口で膨らませたふうせんは、



どんなに頑張ってもふわふわ漂ってはくれない。



手のひらでようやく浮かせても、



天井板についたとたんにゆっくりゆっくり落ちてくる。





(お願いだから、ふわふわ浮いて)





私は必死で手のひらを動かす。



ふうせんはまた知らん顔して落ちてくる。







      ***







「この中にどれだけ入ると思う?」



新しいゴムを取り出して男の子が言いました。



またこの人は何をしでかすのか、とわくわくしながら



女の子は彼の後に続いてお風呂場に入りました。



ボロボロのラブホテルの、狭い風呂桶には



穴の開いたシャワーと曇った鏡がありまして、



男の子はその蛇口にゴムをつけると、きゅっとそれをひねったのです。







ゴムがみるみるふくらんでゆきました。



見慣れない形がずっしりと垂れ下がり、



それはやがて風呂桶の床に届き、



「えーっ」と口を開ける女の子の目の前で



ずるりと冬瓜のように大きくなり、



彼女の家の庭でとれる冬瓜よりもっともっと大きくなり、



やがて風呂桶いっぱいに広がって、もう駄目…



というところで、男の子は水を止めました。





ぶよぶよと、口を縛った薄いゴムいっぱいに詰まった水。



すっぱだかの男の子と女の子は



げらげら笑ってそれを転がしました。





ぶよん、ぶよん、



たぷん、たぷん。



ぶよん、たぷん、ゆらり、ぐらり、



…ばっちん。





遂にゴムは破れ、とめどなく流れる水の中で



男の子は呟きました。





「これ枕にして割ったことあるねんなあ」



「・・・」









     ****









窓をそっと開けると、



カンカンと終電がホームに流れてくるところでした。



一瞬のまどろみの後でしたが、



まだ「今日」は終わっていないのです。



遊びつかれた男の子と女の子の壁一枚向こうには



長く忙しい一日が、まだ役目を終えず流れていました。



電車から出てきた男の人や女の人は、



何だかとても人形じみて見えました。



何故ならこの街自体が、どうしても作り物めいていましたので。



…いいえ、それは違います。



この壁よりこっち側が、日常からかけ離れているだけなのです。







私はそっと窓を閉めました。



オレンジ色の部屋の中では、白いおふとんのなかで気持ちよさそうに



男の子がいっぴき、ぐうぐう眠っておりました。



ついさっきまでの情念はまるで「夢の中」でした。



私にはどうしても、



この壁の向こうとこちらでは世界が違うような気がしてなりませんでした。







実際、あちらの男の子と私の間にも



今きっと越えることのできない淵が沈んでいるに違いないのです。









       ***









天つ風



雲の通い路 吹き閉じよ



乙女の姿 しばし留めむ







初めてこの唄をきいた時、



「ああ、つくった人はきっとエロなんだな」



とくすくす笑いました。



乙女は絶対待ってなんかやらず、



ひらひらと雲の彼方に消えてしまうのが面白いんですから。



ぼんやり口を開けてる貴公子の目の前で



ゆらゆら立ち上る天女の姿を



私はのんびりと思い浮かべておりました。







しかし今は私が口を開けているのです



つかまえることのできないふうせんを眺めて、



雲の通い路なんてそこにはないのに、



あのこは一体どこにいくというのでしょうか。



そんなこといくら考えても、ふうせんは知らん顔。









あれが幸せかなにかだとは到底思えないのです。



パンドラの箱の中にゼウスが希望を入れておいたのは策略です。



それがないと今日一日も生きてゆけない…



それでいて今日一日が終わる時には残酷な欠片となって



眠れぬ夜の住人たちを苦しめるのですから。





まったく、あの男は酷い男です。









       ***









この間、流れる窓の外には大きな赤い月が浮かんでおりました。



それは見る間に黄色く、白くなり、



やがては高く小さくなりました。







またこの間、錆だらけの窓の向こうには



女の子の爪あとほどに小さな三日月がぽつんと浮かんでおりまして、



忙しなく薄雲のベールを脱いだり着たり、



まったく月という子はかわいい女の子なのです。







今日はあの子が見えません。



あの子を見る度、私は様々な夜の切れ切れを思い出します。



あの子は今日もどこかで



誰かを見つめたり見つめられたりしていることでしょう。



それは寂しい恋人たちか、それとも浮かれた恋人たちか



ひとりぼっちの旅人か、仕事帰りのOLか、



家出したばかりの少年か、人を殺した後の老人か、



おなかいっぱいのコヨーテか、眠りかけの飼い犬か、



誰の瞳に彼女が映っているのか、想像するだけで



私はちょっぴり嬉しくなるのです。









そしてあの日のふうせんが



いつかきっとあの子のところまで行けますように、



そうでなくとも、せめてあの子の光の下で



ゆっくりと萎んで落ちてゆけますようにと



そんなことを考えたりしながら



今日もくったりとお布団の中に潜り込むのです







…それではみなさま、おやすみなさい。



夢の通い路で、会いましょう。





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